187-衆-法務委員会-6号 平成26年10月31日 ○柚木委員 ただいま議題となりました修正案につきまして、民主党・無所属クラブを代表し、その提案の理由及び内容の概要を御説明申し上げます。  政府提出の公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律の一部を改正する法律案は、資金以外のいわゆる物質的支援の提供、収集を犯罪化するとともに、テロ行為の実行を容易にする目的でテロ企図者に資金等を提供しようとする者、いわゆる一次協力者による資金等の提供行為の実行を容易にする目的で、当該一次協力者に対し資金等を提供する二次協力者の行為に係る処罰規定等を新設しようとするものであります。  しかし、テロ企図者に資金等が提供される危険が具体化していないものを独立して処罰することや、テロ行為の実行から遠く離れた行為についてまで処罰対象を広げることは妥当ではありません。仮に、一次協力者からテロ企図者に資金等が提供された場合に、その資金等を一次協力者に提供した二次協力者については、今回の法改正によらずとも、刑法総則の共犯規定により処罰対象となります。また、これまでに現行法で検挙された例はなく、今回の改正で拡大される部分で検挙可能であった例も把握されておりません。  これらに鑑みれば、政府案が新設しようとする罰則は、その処罰範囲が広範に過ぎるものと考えます。  そこで、政府案から処罰対象となる主体の範囲を限定するため、この修正案を提出した次第であります。  以下、この修正案の主な内容について御説明申し上げます。  一次協力者によるテロ企図者への資金等の提供行為の実行を容易にする目的で、二次協力者が当該一次協力者に対し資金等を提供する行為、一次協力者がみずからのテロ企図者への資金等の提供行為の実行のために利用する目的で資金等を提供させる行為並びにテロ行為の実行のために利用されるものとして資金等を提供する行為及び提供させる行為に係る処罰規定を削除することとしております。  以上が、この修正案の提案理由及びその内容の概要であります。  何とぞ、御審議の上、委員各位の御賛同をお願い申し上げます。 ○奥野委員長 これにて修正案の趣旨の説明は終わりました。 ○奥野委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。  本案及び修正案審査のため、本日、参考人として弁護士・日本弁護士連合会国際刑事立法対策委員会委員長山下幸夫君及び東京大学大学院法学政治学研究科教授橋爪隆君の出席を求め、意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 ○奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。     ――――――――――――― ○奥野委員長 この際、参考人各位に委員会を代表して一言御挨拶を申し上げます。  本日は、御多忙の中、御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れば幸いに存じます。  次に、議事の順序について申し上げます。  まず、山下参考人、橋爪参考人の順に、それぞれ十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。  なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。  それでは、まず山下参考人にお願いいたします。 ○山下参考人 皆さん、おはようございます。  ただいま御紹介いただきました日本弁護士連合会の国際刑事立法対策委員会委員長をしております山下でございます。  きょうは、参考人ということで、日本弁護士連合会のこれまでの、この法律のもとになっている現行法並びにこの改正案に対する意見ないし会長声明を踏まえまして、この改正案のうち、特に政府原案に対する意見を述べさせていただきます。  今回審議されております公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律の一部を改正する法律案というのは、平成十四年に制定されたこの法律、いわゆるテロ資金提供処罰法と呼ばれている法律でございますが、以下、これを現行法と言わせていただきます、この現行法の改正でございます。  日本弁護士連合会は、現行法の制定時に、平成十四年四月二十日付の意見書におきまして、その法案に反対する意見を述べております。そこでは、そもそもこの法律は、国連のテロ資金供与防止条約の国内法化のための法律でありますが、条約が求める規制の範囲をはるかに逸脱し、その処罰の範囲を著しく拡大するものであるということ、構成要件が曖昧で不明確であるということ、予備の幇助を独立犯として処罰し、その未遂犯も処罰しようとするもので、刑法の共犯規定の例外を定め、刑事法制に重大な影響を与えるものであるから法制審議会で審議されるべき法案であるのに、その手続を経ないで法案を提出されたということなどを反対の理由として指摘しております。  本改正案の政府原案は、この問題のあった現行法を改正しようというものでございます。  本改正案の政府原案に対する改正点は、以下の二つの点でございます。  まず第一に、現行法においては資金の提供が処罰対象となっておったのですが、この提供の対象を、資金に限らず、その実行に資するその他の利益、すなわち物質的な利益にまで広く拡大するという点でございます。  第二に、これまで、公衆等脅迫目的の犯罪行為を実行しようとするいわゆるテロ企図者に対して直接資金を提供する行為及びそのような者に資金を提供させる行為を処罰しておりましたが、改正案の政府原案は、いわゆるテロ企図者に対して直接資金等を提供する一次協力者間の提供行為及びその提供を受ける行為、一次協力者に対する二次協力者の資金等の提供行為及びその提供を受ける行為、二次協力者に対するその他協力者の資金等の提供行為及びその提供を受ける行為まで、法定刑を少しずつ軽くしながら、その処罰範囲を拡大しようとしております。  しかしながら、この改正案の政府原案には、次のような問題点があると考えられます。  まず、提供の対象を資金から物質的な利益にまで拡大しようとする点については、現行法第二条の「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする目的」という曖昧な文言と相まって、提供行為についての構成要件がますます曖昧となり、捜査機関による恣意的な運用がなされるおそれを拡大することになるという問題があります。  次に、資金等の提供者について、一次協力者に資金等を提供する二次協力者、二次協力者に資金等を提供するその他協力者にまで処罰範囲を拡大しようとする点については、処罰対象者を著しく拡大するものであります。  現行法であるテロ資金提供処罰法は、公衆等脅迫目的の犯罪行為を実行しようとするいわゆるテロ企図者に対して直接に提供行為を行う予備行為の幇助を独立犯として処罰する規定を設けております。  そもそも、刑法の解釈論として、予備の幇助が認められるかどうかは一つの論点であり、これを否定する見解もあるところでありますが、現行法では、資金の提供行為に関して、予備行為の幇助を独立犯として処罰する規定を設けたということであります。  既に述べましたように、日本弁護士連合会の意見書においては、現行法第一条の公衆等脅迫目的の犯罪行為の規定の仕方が曖昧で不明確であるということを指摘しておりました。  本改正案の政府原案は、いわゆるテロ企図者に対する資金等の提供行為を一次協力者の行為と捉えた上で、さらに、その一次協力者に対する資金等の提供行為を新たに処罰しようとしております。これは、いわば予備行為に対する幇助の幇助を処罰しようとするものであります。  そもそも、予備行為や幇助行為という概念は、非常に外延が広くて曖昧なものであり、運用次第でその処罰範囲が不当に拡大するおそれがあります。それでも、現行法では資金の提供行為という限定がありましたが、本改正案の政府原案では、これを物質的利益の提供にまで広げようとしておりますので、処罰範囲が広がり過ぎるおそれがあることは否定することができません。  本改正案は、さらに、一次協力者に対する資金等の提供をする者を二次協力者として、その二次協力者に対するその他協力者の資金等の提供も新たに処罰しようとしています。これは、いわば予備行為に対する幇助の幇助の幇助を処罰しようとするものです。これにより、そもそも予備行為や幇助行為という概念が非常に外延が広く曖昧なものであることと相まって、その処罰範囲はさらに拡大することになります。  いずれの罪についても、「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする目的」という目的規定や、「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行のために利用されるものとして、」という限定はされていますが、その要件も極めて曖昧であり、適切な限定になっているとは考えられません。  このように、本改正案の政府原案は、現行刑法の共犯規定と比較して、正犯の行為からはるかに離れた行為を処罰しようとするものであり、その処罰範囲は著しく広範に過ぎると考えられます。本改正案の政府原案が成立すると、構成要件が不明確であり、著しく広範な処罰範囲を定めることから、テロ対策という極めて政治的な判断から、恣意的な不当逮捕、勾留がなされる危険性が増大することになると考えられます。  テロリズムを予防するための措置の必要性と、国際社会の中で我が国がその役割を果たすことが重要であるということは言うまでもありません。本改正案が、政府間組織であるFATF、金融活動作業部会からの勧告に基づいていることも承知しているところであります。  しかしながら、テロリズムの予防のためには、市民の基本的自由を侵害することがないよう、基本的人権に十分に配慮し、尊重することが必要であり、テロ対策のための目的と手段のバランスをとることが必要であると考えられます。  現行法及びその改正案の政府原案は刑事立法であり、その恣意的な運用によって国民の身体の自由が侵害されることがあってはなりませんし、処罰範囲が過度に広範で、不明確な処罰規定が存在すること自体によって、国民の自由な活動が萎縮させられるおそれがあります。テロ対策のための目的と手段のバランスがとれていないという点で、本改正案の政府原案には問題があると言わざるを得ません。  現行法が成立した後、一件も適用例がないとされています。これは、国内法としての立法事実がないことを示しており、少なくとも、我が国において、本改正案の政府原案のような改正をしなければならないという立法事実は存在していないと考えられます。  本改正案の政府原案にはこれまでに述べたようなさまざまな問題点があり、本改正案の政府原案には反対せざるを得ないと考えております。  日本弁護士連合会は、平成二十五年四月十七日付の会長声明において、本改正案に反対し、広く国民の意見を聞いて徹底的に審議を尽くすことを国会に対して求めているところであります。  以上で私の発言を終わります。ありがとうございました。(拍手) ○奥野委員長 ありがとうございました。  次に、橋爪参考人にお願いいたします。 ○橋爪参考人 ただいま御紹介にあずかりました東京大学の橋爪と申します。専門分野は刑法でございます。  このように参考人として意見を述べる機会をいただきまして、大変光栄に存じます。本日は、刑法の一研究者の視点から、今回の改正法案の内容につきまして若干の意見を申し上げたいと存じます。A4で一枚の資料をお配りしているかと存じます。それに即しまして、考えるところを簡単に申し述べたいと存じます。  当委員会におきます議事録を拝見しておりますと、改正法案をめぐっては刑法上の問題点について御指摘があり、活発な御議論があったように理解しております。私は刑法の研究者でございますので、このような刑法上の問題点に限って、きょうは若干の意見を申し上げたいと存じます。  恐らく、本改正案につきましては、刑法上、二つの観点からの御懸念があったように理解しております。すなわち、第一に、改正法案においては、処罰の主体が拡大されたことによって、現行法と比較して処罰範囲が大幅に拡大しているのではなかろうかという御懸念、さらに、第二に、改正法案の特に三条ないし五条の処罰規定については、その限界が不明確であり、犯罪構成要件としての明確性の要請に十分に対応できていないという御懸念でございます。  こういった問題点は大変重要な御指摘ではございますが、結論から申し上げますに、刑法理論としては必ずしも深刻な問題ではないように考えております。  以下、順次その根拠を申し上げます。  まず、第一の点でございます。  まず、現行法の処罰範囲を確認しておきたいと思いますが、現行法第二条におきましては、公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする目的で資金を提供する行為が処罰されており、これが改正法案三条一項において基本的に引き継がれております。  そして、改正法案では、三条二項におきまして、三条一項の行為者と同一の目的のもと、資金提供者に対してさらに資金等を提供する行為、以下、これを間接的資金提供行為と申し上げますが、この間接的資金提供行為の処罰、また、第四条第一項では、三条一項の罪の実行を容易にする目的による間接的資金提供行為の処罰が提案されておりまして、これは、一見しますと、処罰範囲の拡張をもたらすようにも見えます。  しかし、これは、現行法におきましても、実は、資金提供罪の共同正犯や幇助犯として処罰可能な類型でございます。すなわち、改正法案三条二項の行為は、資金提供罪の共同正犯が成立し得る局面、また、改正法案四条一項の罪は、資金提供罪の幇助犯として処罰可能な行為の一部を特別に切り取って、独自の構成要件にしたものと解されます。こういった意味におきまして、処罰範囲に関して決定的な変更が生じているわけではございません。  ただ、唯一大きな変更点は、間接的資金提供行為の処罰時期の早期化でございます。  すなわち、現在の判例、通説の理解では、正犯者が実行行為に着手した段階に限って共同正犯、幇助犯は処罰可能であると解されておりますので、現行法では、資金提供罪の犯人が、テロを具体的に企図している者に現実に資金を提供しようとした段階で初めて、間接的な資金提供者は資金提供罪の共同正犯または幇助犯として処罰可能でございます。  本改正法案は、この問題に関しまして、間接的な資金提供があった段階で処罰が可能とするものでありまして、間接的資金提供の処罰時期の繰り上げを想定したものと評価できます。  確かに、その意味では処罰範囲が広がっていることは否定できませんが、しかしながら、逆に申し上げますと、間接的資金提供の事実が明らかであるにもかかわらず、資金提供者がテロ犯人に資金等を提供するまでは一切処罰ができないということ自体が、実は合理的な限定ではなかったように思います。  なお、処罰時期を早期化するためには、その分だけ処罰対象を合理的かつ明確に限定する必要が高いと思われますが、本改正法案は、資金提供罪の共同正犯的な行為、幇助犯的な行為を全て処罰するわけではなく、一定の目的における資金等の提供行為のみを処罰対象にしており、処罰対象を明確かつ合理的な範囲に限定することに十分に成功しているように思います。  なお、改正法案第五条は、一見しますと、かなり広い範囲で資金提供行為一般を処罰対象にしているように見えますが、法案をごらんいただきますと、あくまでも「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行のために利用されるものとして、」すなわち、テロ行為等に利用されることを認識、認容した上で、しかも、テロ行為に利用され得る客観的な危険性が存在する状況において資金を提供する行為のみが処罰対象とされておりますので、処罰範囲が過剰に広範に至るような御心配はないように考えております。  続きまして、第二の点、すなわち処罰対象の明確性の問題でございます。  まず初めに申し上げたいことは、本改正案が提案している処罰規定の内容それ自体が明確であることは疑いがない点でございます。すなわち、改正法案は、各犯罪類型ごとに厳格な目的要件を課した上で、さらに、客観的な犯罪行為を資金等の提供行為に限定して規定しております。このような構成要件の内容自体は十分に明確であるように考えております。  恐らく、先生方の御心配は、三条ないし五条の罪については、主観的な目的の相違によって犯罪類型が区分されており、このような主観面の微妙な相違によって個別犯罪の区別をすることは困難ではないかという点にあるかと存じます。  確かに、改正法案は、目的といった主観的要件によって構成要件を区別しております。しかし、このように行為者の主観面を重視し、それに見合った刑罰を科すというのは、日本の刑法全般に当てはまる理念でございまして、本改正法案に限った話ではございません。  また、このように厳格な目的要件を要求し、それを満たす場合に限って処罰をするというのは、処罰範囲を限定する手法として十分な合理性を持つように考えております。  さらに申しますに、このような主観的目的要件につきましては、あくまでも検察官の方が十分な証拠を収集し、立証活動を行い、また、裁判所が慎重な事実認定によって判決を下すことになりますので、処罰範囲が不明確に広がってしまうとか、あるいは被告人または弁護人の方に過大な負担を課すようなことはあり得ないと考えております。  私の意見は以上でございます。御清聴まことにありがとうございました。(拍手) ○奥野委員長 ありがとうございました。  以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。     ――――――――――――― ○奥野委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。柚木道義君。 ○柚木委員 両参考人の先生方、ありがとうございます。それぞれの御所見を賜りまして、それを踏まえまして質問をさせていただきたいと思っております。  まず、先ほど、民主党の修正案について私も説明をさせていただいたわけでございます。我々といたしましては、それぞれ先生方から今御所見をお述べいただいたわけではございますが、政府案が新設を企図する罰則規定というのが広範に過ぎるのではないかというふうな判断がございまして、政府案から処罰対象となる主体範囲を限定し、明確にするための修正案を提出しておるところでございます。  今、御所見をいただいたわけではございますが、それも踏まえまして、この修正案に対しての両参考人よりの御所見をそれぞれ賜れればと思います。お願いします。 ○山下参考人 それでは、私の方から意見を述べます。  先ほど私が述べましたとおり、そもそも、二次協力者、それから二次協力者に対するその他協力者に処罰範囲を拡大するというのは、やはり処罰範囲を拡大していると思います。  先ほど橋爪参考人の方から、これはそもそも、本来、現行法で処罰しているものの共同正犯または幇助と同様のものであるという御説明があったんですが、今回の法案は、わざわざ二次協力者それからその他協力者に対するところについては少しずつ刑を軽くしていっているんですね。もし共同正犯、幇助で対処できるのであれば、刑をわざわざ軽くするのはおかしいわけでありまして、刑をわざわざ軽くしていっているというのは、それだけ範囲を広げている分、その分、要するに軽くなっていると考えられます。したがって、やはり処罰範囲が現行法よりも広がるものである、それをわざわざ規定をつくるわけですので、当然適用範囲が広がると考えられます。  したがって、今回の修正案につきましては、二次協力者、その他協力者の関与部分を削除するという提案については、私としては大変よい提案であると考えております。 ○橋爪参考人 お答えいたします。  ただいまの修正案でございますけれども、私の理解では、三条二項の間接的な資金提供行為に限って処罰をすることとし、第四条また第五条の資金提供行為については処罰をしない趣旨の御提案と理解いたしました。  結論から申し上げますと、私は、既に申し上げましたように、政府案の第四条、第五条の提供行為につきましても、これはテロ資金を断ち切るという観点からは十分処罰する価値はあるというふうに考えております。  もっとも、三条の罪と比べた場合、四条、五条の罪につきましての当罰性、可罰性が低いことも、これは否定しようがないと思います。実際、政府案でも、法定刑は、五年、二年と相当低くなっております。  このように、両者の当罰性、可罰性に相違がある以上、いかなる範囲まで処罰をするかという問題点は、これはすぐれて価値判断、政策決定の問題でございまして、刑法の理屈で片がつく問題ではないと思います。  こういった次第で、私としましては、原案も修正案も刑法理論としてはあり得る選択であるということは申し上げますが、その当否については、ここでは具体的な個人的意見は差し控えたいというふうに考えます。 ○柚木委員 両参考人から、それぞれありがとうございます。  やはり、この政府案に対して、それぞれ、我々の修正案に対する一定の必要性といいますか、あるいは適正性といいますか、そういった部分については、私としては、今いただいた御答弁の中で、やはりこの修正案についてもしっかりと審議をさせていただく必要があるなと受けとめたところでございます。限られたところでございますので、この後、政府案に対する質疑で、それぞれ委員の皆さんからこの点についても深めさせていただけるものと思います。  次にお伺いをさせていただきたいのが、両参考人にお尋ねをしたいわけですが、これは日本商工会議所の声明で、平成二十六年十月七日にこのようなコメントがなされております。いわゆるFATFから「ハイリスク国として公表されることにより、わが国の国際社会における信用が低下するのみならず、邦銀に対する欧米などの金融当局の監視が強まるほか、邦銀の海外取引に支障が生じ、企業の海外事業活動が多大な影響を受ける可能性を強く懸念」と。よって、速やかな法案成立をということでございまして、経済誌の論調も、政府による説明も同様でございます。  規制緩和や市場開放で慣例化されてきたいわゆる外圧といいますか、そういった部分がいまだに健在という見方もあるのかもしれませんし、ちょっとうがった見方かもしれませんが、経済優先、人権は二の次という感が正直しないわけでもないというふうに思います。  本法を含む一連のテロ対策立法も含めまして、刑事立法については、国際標準化として、治安強化の方向で進められてきたというふうに認識をしております。  その必要性についても私は一定の認識を持っておるわけでございますが、他方で、有事法制もそうだったと思いますし、そういう中で、ただ、その外圧の中にも、私の中ではダブルスタンダードのようなものが存在をして、例えば、どれだけ非難や勧告を受けようとも、私、この間も委員会でも実は質疑させていただいたんですが、例えば我が国における女性差別、人種差別あるいは労働者保護に関する国際条約、規約に係る対応などがなかなか十分に進んでいない。  そして、刑事立法分野においても、国際人権基準の国内適用は、国際的な批判を受けている、代用監獄における自白強要の根絶や取り調べの可視化なども、まだ十分に進んでいるという状況とは言えない。  こういった中で、外延が曖昧な本法の適用拡大や、冤罪に対するおそれなどが払拭できない背景には、今申し述べたような状況が実はあるのではないかというふうに考えております。  そこで伺いたいのが、このような我が国と我が国政府のそういったありようといいますか現状について、それぞれ両参考人よりの御所見、御提言を賜れればと思います。 ○山下参考人 FATFからの勧告といいますか、これは、四十の勧告、第三次勧告に対する、日本に対する相互審査の結果を踏まえたものでございますが、これは決して今回のテロ資金提供処罰法の改正だけを言っているわけではなくて、FATFは、本来、主としてマネーロンダリングの規制にかかわるところでございまして、テロ対策ももちろんやっておりますが、中心はマネーロンダリング対策でございます。日本はやはりマネーロンダリング対策においてまだまだおくれている、第三次勧告をまだ十分に履行していないということでございます。  この国会においては、犯罪収益移転防止法の改正案がもう既に提出されておりますので、そこである程度はまだカバーできると思うんですが、要するに、テロ対策だけがFATFの勧告の眼目ではないということ。  そして、今回も、物質的利益にまで広げるというものでも、それはFATFの勧告を満たすものでありまして、一〇〇%かどうかはともかく、とにかくFATFの勧告に対して対応することが大事であるということ、そしてマネーロンダリング対策が何といっても重要であるということでありまして、刑事関係におけるテロ資金提供処罰法だけを取り上げて、そこだけをとにかく急いでやらなければならないというような勧告がされているわけではないということでございます。  そして、今御指摘ありましたが、私も、日本政府は、これまで人権関係条約については、ほぼ、何ら法的な国内法の対策をしないで批准をする。これに対して、刑事関係条約については、まず日本国内で対応するための法整備が必要であるといって非常にその法整備を急ぐ、それをしない限り批准しないというような、ダブルスタンダードな対応があったと思います。これは、例えば、いわゆる国際組織犯罪防止条約における共謀罪に関するものとか、そういうことを見ても明らかでございます。  そのように考えております。 ○橋爪参考人 お答え申し上げます。  確かに、今回の改正法案につきましては、FATFの勧告が大きな影響を持っていることは承知しております。  ただ、そのような外圧が仮にないとしましても、本件テロ資金の対策というのは重要な懸案でありまして、まさしくテロといったものが、日本国民のみならず、世界的な一般大衆の生命身体に重大な危険をもたらすことに鑑みましたら、それは十分に処罰価値があり得るものであると思います。  そういった意味で、仮に外圧がないとしましても、本法律につきましては、改正し、十分な対策を講ずる必要があるというふうに考えております。 ○柚木委員 ありがとうございます。  それぞれの参考人の御所見を賜る中で、やはり政府案に対する必要な論点というものもクリアになってきているというふうに思います。それぞれ御所見をいただいておりまして、ありがとうございます。  今までお述べいただいた御所見も踏まえて、私自身は、あるいは多分、この場の委員の皆さんもそこは同様だと思うんですが、それぞれ参考人のお二方もそういった趣旨をお述べいただいていると思うんですが、やはりテロというのは当然のことながら犯罪でございまして、厳しく処罰されるべきというのは、これは私もそのように認識をしております。  同時に、この法案や、あるいは関連のこういった法律的な対応によってのみ、そういったことが防ぎ得るわけでもないというふうに思っておりまして、まさにテロに至るいわば根本原因といいますか、さまざまな要因が当然考えられるわけですが、そのいわば病根のようなものを、まさに政治も含めてさまざまな社会的な変革やアプローチなどによって除去していく、こういったことがなければテロの根絶ということには至らないというふうに考えるところでございます。  そこで、国際紛争を解決する手段として戦争を永久に放棄している我が国におきましては、まさに、武力、戦争によらないテロ根絶のための国際貢献、そういったものが求められていると思うわけでございますが、それぞれのお立場から御所見、御提言をいただければと思います。 ○山下参考人 確かに、テロ対策というのは単なる刑事立法をするだけではだめでありまして、やはり、今言われたようなテロの原因を根絶する。そういう意味では、日本においては恐らく貧困問題が大きいと思うんですけれども、そのような貧困問題とか、そういうものを解決する、そしてテロのない社会をつくるということが大事だと思うので、総合的にやるべきであって、何か刑事立法だけすればいいというようなやり方ではやはりだめだと思います。  そういう意味では、バランスをとった総合的なさまざまな施策を通じて、テロがない社会をつくっていくことが大事であると考えております。 ○橋爪参考人 私のお答えをいたします。  ただいまの先生の御指摘、非常に感銘を受けましたが、私はあくまでも刑法の専門家としてきょうは参っておりますので、それ以外の問題につきまして提言等をすることはちょっと分不相応でございますので、そこにつきましてはお答えを控えさせていただきます。 ○柚木委員 今、それぞれ御所見をお述べいただいたわけですが、やはり社会全般的なアプローチ、先ほどの貧困ということもありましたので、そういったことも含めて取り組んでいくことが、この法案自体が実効性をより高めていくということにつながっていくのではないかというふうに改めて私も思わせていただいているところでございます。  時間の方がそろそろなくなってまいりましたので、最後の質問にさせていただきたいと思いますが、御承知のように、我が国には、テロ資金対策と同様に、組織犯罪資金対策も国内外より強く求められておるところでございます。これは、昨年のみずほ銀行の、いわゆるジャパニーズ・マフィア・スキャンダルといいますか、こういった問題を初め、依然としてその対策がまだまだ非常におくれているという感を正直否めません。  さらに、今般、これはそれぞれ委員の先生方にもお考えがおありとは思いますが、例えばカジノの解禁あるいはネット上の仮想通貨などなど、そういった意味では、いろいろ意見を異にするようなテーマも増大しているところでございます。  テロ資金対策を含めたこれらの組織犯罪資金対策について、御専門でない部分もひょっとしたらおありかもしれませんが、両参考人よりの御所見、御提言をいただければと思います。 ○奥野委員長 山下参考人。できるだけ簡潔にお願いします。 ○山下参考人 確かに難しい問題だと思いますが、これはまさにマネーロンダリングの問題として対処する必要があり、我が国は、そういう意味では、先ほど言いましたように、FATFの第三次勧告をまだ完全実施できていないという状況ですので、まずそういう面。そして、とりわけ、銀行などの金融機関におけるマネーロンダリング対策についてはまだまだおくれている面があると思いますので、それについては、単なる法規制だけではなく、運用も含めた対策が必要であると考えております。 ○橋爪参考人 本法案におきましても客体を資金から利益に拡大しておりますので、そういった意味におきましては、今先生がおっしゃったようなバーチャルな利益につきましても本法案においてカバーできるように考えております。 ○柚木委員 以上で終わります。どうもありがとうございました。