少年法適用年齢引き下げに関する質問主意書
★二〇一七年(平成二十九年)二月、当時の金田勝年法務大臣が法制審議会に対し、少年法の年齢上限を十八歳にまで引き下げる諮問(以下「諮問第百三号」という)を行った。 この諮問第百三号に関連して以下、質問する。
一 わが国の二十歳以下の少年刑法犯は一貫して減り続けている。2003年(平成15年)には少年の一般刑法犯の検挙人員は14万4404人だったが、2016年(平成28年)には3万1516人にまで減っており、人口全体に占める少年人口比の減少以上に少年の検挙人数は減っている。 これは、わが国で少年犯罪への現状の対応が十分に効果を発していることを示すと考えるが、政府の見解如何。
二 家庭裁判所調査官によれば、「非行少年」は高校卒業や職業選択を機に、十八歳から十九歳で大きく変化することが多い。家庭裁判所はこのような少年たちの十八歳から十九歳の変化を見据えて教育的措置を行い、保護処分を検討してきた。
1965年(昭和40年)12月に最高裁判所事務総局家庭局が提出した『最近の少年非行とその対策について―少年法改正をめぐる諸問題―』では、少年法適用年齢引下げの議論に関連して以下のように述べている。
「戦後、子どもの成熟度が大いに伸びたといわれているが、このいわゆる成熟促進現象と呼ばれるものは、肉体面や性的な面、あるいはせいぜい知的な面にとどまり、精神的および情緒的な面には及んでいない。むしろ、この心身両面における成長のアンバランスが現在の少年非行の起因をなしているとも言われているのである。そうして、最近の生理学、心理学、精神医学等の知識によれば、十八、九歳という年齢層は、いわば少年期から成人期へと成長していく不安定な過渡期にあり、外見的な肉体の発達にもかかわらず、心身ともに未成熟であることが明らかにされている。しかも、一般に非行に陥るような少年は、通常の少年に比べ、心身の発達の劣っているものが大部分である。たとえば比較的非行性が高いとして施設に収容されている少年たちは、精神発達の面においても、身体発育、運動能力の点においても、一般少年より平均二、三年の遅れを示していることが指摘されている。」
政府としては少年の精神的発育が1965年(昭和40年)当時の指摘と大きく変わって、現在では国内の十八、十九歳の少年が全て成人期へ移行しているといいうると考える科学的証拠(エビデンス)を有しているのか。有していればその内容を答えていただきたい。
三 「成人年齢」が法制度ごとに異なる点についての政府の説明を求む。
四 仮に少年法の適用年齢が引き下げられた場合の十八歳から十九歳の「年長少年」に対する処遇については、法制審議会にて「若年者に対する新たな処分」「罰金の保護観察付執行猶予」や「保護観察付執行猶予の活用」などの制度が議論されている。 現行の教育措置が十分に機能しているのに、十八歳から十九歳の少年に対して現在より不十分な処遇で良いと考える根拠を求める。
五 犯罪等を犯したとされる少年を起訴するかしないかなどの決定や判断を検察官が行う場合は、最高裁判所事務総局が指摘する通り、人権を侵害するおそれのある矯正処分の決定を行政機関が行うことであり、憲法に掲げる基本的人権の尊重の理念に照らして許されないのではないか。また、最高裁判所事務総局が指摘するとおり、捜査機関として少年と対立しうる立場にある検察官では中立的な処遇決定は行えず、また検察官には家庭裁判所調査官や医務室のような科学的補助機関が常設されておらず、少年の処遇を判断する点で検察官は「科学性においてはるかに劣る」(最高裁判所事務総局)のではないか。
六 諮問第百三号は、直接的には少年法の適用年齢を引き下げることに関する諮問であるが、仮にこの諮問が実現し各法の改正にまで至れば、例えば少年院・少年鑑別所における少年の「定員」に限らず、少年院・少年鑑別所・家庭裁判所の統廃合や職員定数減をもたらすおそれがある。
(1)政府として、少年院や少年鑑別所、そして家庭裁判所を縮小・統廃合して良いという考えなのか。
(2)家庭裁判所、少年鑑別所及び少年院が統廃合された場合の問題点について政府はどのように認識しているか。