刑法における性犯罪規定並びに性的暴力及び児童虐待への対応に関する質問主意書
★本年3月26日、名古屋地方裁判所岡崎支部にて、娘に対する実父の性的虐待に関する「準強制性交等罪」が問われていた事件について、無罪の判決が下った(以下「本判決」という)。本判決に関連し、刑法の性犯罪規定並びに性的暴力及び児童虐待の被害者に関する施策に関して質問する。
一 刑法第177条の強制性交等罪では、「暴行又は脅迫」を用いて「性交、肛門性交又は口腔性交」(以下「性交等」という)を行ったことが構成要件となっている。しかしながら「暴行又は脅迫」の要件が厳格であるため、たとえば加害者から暴言や圧迫を受けて被害者が深刻な生命の危機を感じ身体が動かなくなる「凍りつき」(フリーズ)に至る例もあり、このようにして性交等を強制されたと被害者が感じたとしても、「暴行又は脅迫」の物理的な証拠がないなどの理由で警察が捜査に入らない例があり、捜査に入ったとしても合理的な疑いを超えないとして検察が加害者を起訴しない例もある。
政府において、強制性交等罪における「暴行又は脅迫」の要件を「同意がない」要件へと改める検討を進める考えはあるか。
二 刑法第178条第2項の準強制性交等罪では「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした」ことが構成要件となっている。 しかし本判決では娘は抗拒不能ではなかったと認定されて「準強姦罪」の適用がなされなかった。
準強制性交等罪の構成要件のうち「心神喪失若しくは抗拒不能」の要件が狭いため罪に問えない例があることから、諸外国の例にならい、この要件を広めて「同意ができない状態」へと改めるよう検討すべきだが、政府においてこの検討を進める考えはあるか。
三 刑法第177条後段では「十三歳未満の者に対し、性交等をした者」は暴行・脅迫の有無にかかわらず強制性交等罪となると規定し、性交同意年齢(その年齢未満であれば同意の有無に関わらず性交を犯罪とする年齢)を十三歳としている。
わが国も未成年の保護の観点から、諸外国の例にならい性交同意年齢を十三歳から十六歳に引き上げるべきであり、その検討を行うべきだと考えるが、政府において性交同意年齢を十六歳へと引き上げる検討を進める考えはあるか。
四 米国では一九八〇年代中頃より性的な児童虐待事件にあたって「司法面接」という制度をスタートさせており、この「司法面接」では、鉄筋のビルではなく子どもが親しみやすい小さな家で、壁に動物の絵が描かれるなどした「話を聴く部屋」で、面接の訓練を受けた多言語・多文化のスタッフが被害についてインタビューを行い、心理学的な観点を加えながら同時に裁判における虐待の立証のため面接が一度だけ行われている。
わが国でも法務省、警察庁、厚生労働省などが協力して、児童虐待に関して被害児との面接の回数を減らすよう努力しているが、それをさらに進めて、各機関協議のうえ児童虐待や性犯罪の被害者に関する面接を一度で済ませる「司法面接」の制度を検討して実施すべきだと考えるが、検討を進める考えはあるか。
五 確かに児童相談所には児童心理司が配置され、虐待に関する精神的なトラウマなどに専門的見地から対応するようになっているが、本判決における「被害者」のように、中学二年生から性的虐待を受けていても児童相談所に通報できず、児童心理司によるカウンセリングを受けることができない被害児もいる。
虐待や性的暴力の被害者は全く悪くない。政府は精神的な深いダメージから被害者を救うために、性暴力について理解と知識がある精神科医師やカウンセラー・セラピストに低廉な費用で必要なケアを受けられる取り組みを進め、また自助グループや虐待・性犯罪に専門的な取り組みを進めるNPO法人などへの支援を拡充するなどにより虐待や性暴力の被害者のケアを充実させるべきだと考えるが、政府の考え如何。
六 右の質問項目五とも関連するが、児童相談所では児童虐待の認知件数も増えているため、多くの職員が多忙を極めている。
厚生労働省では児童相談所を設置している各自治体に対して、定期人事異動における児童福祉司への配慮を求めている。確かに児童相談所の業務は自治事務であるが、児童福祉司の異動への配慮を法制化し、あわせて児童福祉司には福祉職を充てるなど専門性を高めるように政府として促すべきだと考える。児童福祉司への異動の配慮と専門性に関する政府の見解如何。